解 説 と 鑑 賞
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■ | 1手目 | → | 29に移動したとき39角の利きを遮らず、かつ16玉に取られないための最遠打。 |
■ | 5手目 | → | 18や19から打つと後手に合駒の余地を与える。 |
少ない駒数で狙いを的確に表現することにかけて、太郎氏は当代随一ではないか。
本局は彼の「簡潔主義」を端的に示す作品である。鋸状に接近してくる玉の動きがユーモラス。
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■ | 1手目 | → | 下の26飛の利きになる。また、上の24歩は角の利きになる。 |
■ | 3手目 | → | 76飛を見越した限定打。 |
■ | 5手目 | → | 下の77角の利きになる。また、25角はもとの利きに戻る。 |
詰上り、攻駒の利きを確認してほしい。角が4枚いる。このような芸当ができるのもフェアリーならではであろう。
本作は妖精賞を得た。作者はとりわけて感銘を受けてはいないようだが。
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■ | 1手目 | → | 最終手で後手の飛角の利きを同時に止めることによって先手の飛角の利きを復活させ、両王手の詰上りを実現するのだが、そうするには後手の飛角の打場所は97と98の組合せしかない。それを見越して43に移動するのである。なお、成ってしまうと馬になるので、角によるマドラシが成立しない。 |
■ | 2手目 | → | これにより17飛(および97飛)の利きが消滅。 |
■ | 4手目 | → | これにより32角(および98角)の利きが消滅。 |
このすばらしい構想を、この形で表現できるとは! 太郎氏の腕の冴えを見る。なお、持駒が歩だと、最終手が禁手(打歩詰)となる。
神無一族作品集「神詰大全」の冒頭を飾る逸品。
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■a) | ![]() | |||
■ | 1手目 | → | 4手目同玉が成立する(復活した28飛の陰になる)唯一の打場所。 | |
■ | 4手目 | → | 先手の飛が取られたので、指し始め位置=28に飛が復活。 | |
■b) | ||||
■ | 1手目 | → | 4手目同玉が成立する(復活した88角の陰になる)唯一の打場所。 | |
■ | 4手目 | → | 先手の角が取られたので、指し始め位置=88に角が復活。 |
この手順の対比をご覧いただこう。角・飛の最遠打から両王手による詰上り。ツインとはかくあるべしという見本のような作品である。
作者は当初、右側配置にしていたとか。このルールでは、左側配置でないと作意が成立しない。
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■ | 3手目 | → | ここに打つ理由は後述。 |
■ | 4手目 | → | この応手も絶対。他の駒や他の打場所では不可。 |
■ | 5手目 | → | 後手の97香が取られたので、97地点から最も近い指し始め位置=91に香が復活。 |
■ | 6手目 | → | 97同王と取ると、91香と復活して逆王手。77王と取ると、22角と復活して逆王手。他に逃げ場所もないので、これで詰みである。 |
この最遠打の意味づけはすごい。詰上りで77角を取ると、22角と復活して逆王手となるのだが、それを妨げないために11に打つのである。
この論理性と的確な表現は、いつもながらの彼の持ち味。
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■ | 1手目 | → | 自殺詰は、先手王の行動範囲を狭くするのが解くコツだろう。そのためには、後手の駒で退路を塞いでいくか、先手王を隅っこに追いやるなどの手段が有効である。本問では、王を99に追いやって詰めることになる。98飛はそれを睨んだ限定打。 |
■ | 2手目 | → | 98飛の利きを変えることによって王手を防ぐ背駒。通常ルールでは「行き所のない駒」として禁手となるが、背面ルールにより飛の利きになっているため有効。なぜ桂なのかは、最終手を参照。 |
■ | 4手目 | → | 王手を防ぎつつ、22王を角の利きに変えている。 |
■ | 5手目 | → | 逆王手(23角は王の利きになっている)から逃れつつ、98飛の利きを復活させている。 |
■ | 6手目 | → | 次の96桂を見越した合駒。 |
■ | 7手目 | → | 97香と背中合わせになることによって香の利きになる。逆に97香は桂の利きになっているため、最終手が成立する。 |
このように駒が飛び交うのもフェアリーの魅力の一つか。実を言うと、私は自殺系が苦手だ。詰形が見えてこないのだ。この詰上りも慣れた人には一目なのかも知れないが、私には意外性たっぷりだった。
42歩の配置(92飛、43玉、52飛成、53桂、13飛、34玉、23飛成、同桂までの余詰防止)が惜しまれる。
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■ | 2手目 | → | 先手の飛が取られたので、指し始め位置=28に飛が復活。 |
■ | 4手目 | → | 先手の飛が取られたので、指し始め位置=28に飛が復活。 |
■ | 5手目 | → | 後手の飛が取られたので、指し始め位置=82に飛が復活。 |
■ | 7手目 | → | 後手の角が取られたので、指し始め位置=22に角が復活。 |
■ | 8手目 | → | 74歩を取って逃げるのは、73歩と復活して逆王手。このために74歩が置いてある。最後の先手飛の復活は詰上りには無関係。 |
再三にわたる飛角の復活劇は、異様なまでの迫力だ。キルケルールを最大限に生かしえた作品だと思う。
しかも、この簡素な初形。太郎氏ならではの感を深くする。
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後手の合駒の種類はすべて限定であることを確認してほしい。
作者は一時期、短編ばか詰において合駒物に凝ったことがある。本局はその総決算的作品であろう。
4種の合駒は、「順列」のオマケ付き。
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■ | 4手目 | → | これにより37角(および59角)の利きが消滅。 |
■ | 8手目 | → | これにより47飛(および49飛)の利きが消滅。 |
■ | 9手目 | → | 後手の飛角の利きを止めることによって、先手の飛角による両王手を実現。また、36・56の逃げ道に利かしている。 |
これもすごい詰上りだ。ただ、ここまで筆を進めてきて、このすごさにも少々不感症になってきたのかも知れない。フェアリーだから当然、という気もしてくるのだ。
もちろん太郎氏の腕があればこそ、実現したものではあるのだが・・・・。
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手順のポイントは、先手王を詰めるのに必要な75角と45香を発生させることである。ちなみに、この玉と王だけの初形を「双裸玉」と呼ぶ。
全く無駄のない配置・手順には誰しもが憧れるだろう。この作品など、まさにその理想にかなうものだと言える。
五段目の駒の打ち場所が9筋から4筋へと一つずつ移行していくのが面白い。
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手順のポイントは、いかにして角香による両王手を実現するかである。遠ざかる玉の動きは【第1番】と対照的である。
本局には個人的な思い出がある。27〜18〜36という角の動きをヒントに、普通作を作ってみたことがあるからだ。もちろん普通作ゆえ、こううまくは行かなかったが。
フェアリーは純粋表現が可能な世界なのだと痛感した次第。
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■(第1解) | ![]() | |||
■ | 3手目 | → | 後手の18銀が取られたので、最も近い指し始め位置=31に銀が復活。 | |
■ | 5・7手目 | → | 後手の銀が取られたが、31にはすでに駒があるため復活できず、先手の持駒となる。 | |
■ | 11手目 | → | 28同玉と取ると、39銀と復活して逆王手。また、逃げることもできないので、これで詰みである。 | |
■(第2解) | ||||
■ | 3手目 | → | 後手の18香が取られたので、最も近い指し始め位置=11に香が復活。 | |
■ | 5・7手目 | → | 後手の香が取られたが、11にはすでに駒があるため復活できず、先手の持駒となる。 | |
■ | 11手目 | → | 18同玉と取ると、19香と復活して逆王手。また、逃げることもできないので、これで詰みである。 |
なお、88王の意味は作意順には現れないが、飛合・角合による種々の余詰を防いでいる。
作者曰く、「2解の極み」と。まさしくその通り。
この完璧な対比を見れば、作者の言にうなずかざるをえない。
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いかにして先手王の退路をなくしていくかがポイントになる。
■ | 3手目 | → | これで26が塞がった。 |
■ | 4手目 | → | これで27・47が塞がった。 |
■ | 10手目 | → | これで28・38が塞がった。 |
最初から最後までずっと「貧乏」である。普通作ではありえない合駒の連続。例によって、コンパクトな形にまとめてある。
66歩(88や99に角を打つ余詰筋を防止)が唯一の心残りか?
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■ | 7手目 | → | これで58が塞がった。 |
■ | 8手目 | → | これで39・59が塞がった。 |
■ | 12手目 | → | これで38が塞がった。また、48歩打を可能にした。 |
■ | 14手目 | → | 同角と取ると後手玉が詰んでしまう。ところがこれは「打歩詰」というルールに反するので禁手。 |
最終48歩を同角と取ることはできないのだ。こういう「法則型」の詰上りには、シャレた味わいがある。
ささやかなトリックだが、おそらく太郎氏の好みのはず。
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先手は99玉に王手を掛け続けなければならないから、88馬以下斜めに進んでいくのは必然。そうすると、その馬と向かい合う後手の対駒は、金か銀になるのも必然。問題は、金銀の順番を限定できるかだが・・・・。
■ | 2手目 | → | この対駒は金(この場合は成銀)に限られる。銀だと王手を回避していないから。 |
■ | 4手目 | → | この対駒は金でも銀でも(論理的には)可。 |
■ | 6手目 | → | この対駒も金でも銀でも(論理的には)可。 |
■ | 8手目 | → | この対駒は金に限られる。53の退路を塞ぐ必要があるからだ。 |
■ | 10手目 | → | この対駒は銀に限られる。金だと42王への逆王手になってしまうからだ。 |
■ | 12手目 | → | この対駒は銀に限られる。金だと42王への逆王手になってしまうからだ。しかも銀打でなければならない。52と41の退路をともに塞ぐ必要があるからだ。 |
■ | 14手目 | → | この対駒は金に限られる。31の退路を塞ぐ必要があるからだ。 |
■ | 16手目 | → | 同馬と取ると32銀が馬の利きと化して逆王手になるので取れない。また、逃げ道もないので、これで詰みである。 |
振り返ってみると、AGM=金、IK=銀は論理的に限定できるが、CEは論理的に限定できない。そこで、盤面に銀2枚を置くことによってCEを金に限定し、足りなくなったAの金を成銀で代用したのである。
なお、98歩は88馬、87金、77馬、98玉以下の早詰防止。
伸びる、伸びる、どんどん伸びる。しかし、単に伸ばすだけでなく、対駒の種類を限定しなければならないのだ。夢のような架け橋を完璧に具現化した傑作。
命名の由来が気になる人は、「神詰大全」をご参照下さい。
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王を石にしておいて25歩、同角までの詰上りは見えているが、先手の持歩がない状態にしておかないと香の王手に合駒が生じてしまう。この先手の持歩を使いきらせるという原理で、7連続歩打2回という手順が成立しているのである。
■ | 2手目 | → | これにより18龍(および98龍)の利きが消滅。最遠移動するのは、以下に見られるように、先手の持歩を少しでも多く減らすためである。 |
■ | 3〜15手目 | → | 龍の利きを遮ることにより、88〜28まで1回目の7連続歩打が成立。 |
■ | 18手目 | → | これにより17王(および18玉)の利きが消滅。 |
■ | 20手目 | → | これにより19飛(および99飛)の利きが消滅。最遠打するのは、以下に見られるように、先手の持歩を少しでも多く減らすためである。 |
■ | 21〜33手目 | → | 飛の利きを遮ることにより、89〜29まで2回目の7連続歩打が成立。 |
■ | 35手目 | → | 予定どおり先手の持歩を消化できたので、ここで最後の一歩を使いきることにより、合駒利かずのすかし詰となる。王は感電しているので動けない。 |
盤面18歩は持駒にしたいが、それだと18から飛を打つ早詰筋が生じてしまう。
神無三郎氏のばか詰「飛行船」(「神詰大全」所収)と同じテーマを、別ルールでより簡潔に表現している。命名の由来はそこからとか。
的確な舞台作りが光る。
スペースが空いたので、穴埋め問題(虫喰い算)で穴埋めを。
虫喰い算: 計算式を復元する問題。□にはひとつの数字が入る。
【埋 草】
ONLINE FAIRY MATE 第037号 1994年10月 神無太郎
<虫喰い算>
(□+□)×(□+□)×(□+□)×(□+□)= □□□□□□
<解答>
(9+9)×(9+9)×(9+9)×(9+9)= 104976
<解説>
表出数字皆無の完全虫喰い。
左辺の□がひとつでも8以下だと右辺は5桁以下になってしまう。
<ONLINE FAIRY MATE 解答者の感想(再録)>
▼ふっふっふ
はじめて解答いたします。虫食い算だけですが...
思わず絶句してしまいそうな作。
▼hanazawa
これはすごい!! 鳥肌が立つような大発見だ。これを元に(□+□+□)×...×(□+□+□)= □□...□、なんて問題も可能だということが予見できる。でも、これをみたときの感激は、もう出てこないね。(オオゲサだったかな? でも感心した。)
▼神無七郎
本当に心配なのは同一作かもしれませんね。
神無太郎
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先手は駒を取れないので、盤面にある龍だけで詰めなければならない。そうするためには、龍の王手に対し後手の合駒が利かない状態を作らなければならない。そう考えると、玉は最下段で詰むことが見えてくる。最下段は可能な合駒の種類が飛角金銀に制限されていて、合駒が利かない状態を作るには最も効率がよいからである。初形ですでに角銀は出揃っているので、あとは飛金を売り切れにしていく手順を模索していくことになる。むろん単に売り切れにするだけでなく、玉の逃げ道塞ぎも兼ねた飛金ブロックを念頭に置いておく必要がある。また、最後は金の移動合が利いてもいけないので、その点も留意しておく。
ルールからして、いわゆる「スーパー詰(単騎詰)」になることは明らかだが、そこに持っていくまでの手順が問題。
これで手順が限定できていること自体すばらしいが、作者の拘りは、序の龍回転と収束の龍回転が対応している点にある。命名もピッタリ。
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11王を詰めるのだから、29玉を31に、後手唯一の「と」を21に運んでいくのは予測できる。
(a) の方は、玉は2筋を、「と」は3筋を上昇していき、終いに巧みな切り替えがあって上記の詰み形を実現している。
(b) の方は、初めに巧みな切り替えがあって、玉は3筋を、「と」は2筋を上昇していき、同様の詰み形に至っている。
ちょっと見は普通作にもありそうな形だが、中身は全くのフェアリーの世界。
わずか、と金1枚の差でこのような対比が可能になったことに驚く。
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■ | 3手目 | → | 上の16桂が王の利きになる。 |
■ | 5手目 | → | 王の利きなので横に動ける。同時に元の桂の利きに戻る。以下、この原理を繰り返すことによって、16桂は六段目を、17王は七段目を横滑りしていく。また、それに応じて24玉は、鋸状に運動しながら四段目を横滑りしていく。 |
■ | 32手目 | → | これで、桂は86、王は87、玉は84まで移動した。一連の規則的趣向は終了し、以下は収束である。 |
■ | 33・35手目 | → | いったん桂と王が逆行するのは面白い |
■ | 37手目 | → | 以下は不規則な動きになるが、桂の上に王が乗る形を作るのが定跡である。 |
■ | 52手目 | → | 王が下の桂の利きになっているため、これで詰みである。 |
「長いだけ」との作者コメントだが、ここまで長くできればそれだけで価値があるのでは?
単純な趣向でも、ここまで徹底されると脱帽するしかない。
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さて、難物が残ってしまった。本局を論理的に解説するのは手に余るのだが、解く上での着眼点だけでも押さえてみよう。
着眼点@:動かせる駒は限られている。
→玉の周りを先手の駒がぐるりと取り囲んでいて、まさに「匣の中」といった風情だが、これらの駒のほとんどは枠および合駒制限の意味しか持たない。実際に駒を動かしてみれば分かるのだが、そもそも王手をかけることのできる駒はごく限られているのである。具体的には、2枚のと金と29銀を捌いて18角を世に出すしか、盤上の駒で王手をかける術はないのである。あとは、合駒を手に入れることによって、局面の展開を図っていくことになる。
また、後手の動かせる駒は先手以上に限られている。盤上では玉だけだ。しかも、その行動範囲は29(18角がいなくなるのを想定して)・39・49・48・47の5箇所に限られている。
着眼点A:合駒も限られている。
→盤上で動かせる駒が限られているので、後手の合駒が局面を展開させる鍵となる。しかし、これも飛角銀歩の4種類に限られている。金桂香は売り切れだからだ(角も売り切れだが18角の捌きが見込めるので入手可能)。しかも、35歩があるので3筋には歩合は利かない。
したがって、王手の可能性を含めて考えると、26角・37飛銀合、29角・38飛銀合、47角・38飛銀合、37飛・38角銀合、47飛・48角銀歩合、49飛・39角銀合、以上の組合せしか成立しないことになる(このうち49飛・39角銀合は、この後すぐ手が続かなくなってしまうから、実質的には除外してよい)。
着眼点B:詰上り形も限られている。
→自殺詰なので27王を詰めるわけだが、27王を動かして開き王手することはできないので、この王は最後まで不動であると考えられる。とすると、この王を詰めるのは26へも利く駒、すなわち37龍か37馬しかないと決まる。そして、その場合玉の位置は47または48である。また、18の退路を塞ぐ必要があるから、玉が29に来たとき18銀(または角)という手が入っているはずである。
以上の推測は手順の必然性をたどればさらに限定できると思うが、とりあえずこのくらいにしておこう。
着眼点@〜Bに述べたように、限定された条件の中で手を進めていくわけだが、とりあえずは手詰まりにならないことを念頭に置いておくことが第一に必要だろう。
ともあれ、このように長く、しかも唯一の手順を生み出すことができた本局は、「奇跡」という言葉に値する。
私はこのような「密室物」が好きだ。狭い所で駒繰りするうちに、微妙に局面が変わっていくのがたまらない。作る側としては、素材の発掘が大変だろう。このように手の続く素材はなかなか見つからないはずだ。
三郎氏が「一族の中で人間頭脳と機械との止揚が最もよくなされているのは太郎氏であろう」という趣旨のことを言われていたが、こういう作品を見るにつけ、その思いを深くするのである。
Copyright © KAMINA Family 2001